私には、発達障害のある知り合いがいます。
名前は山田リカさん(仮名)といって、20代半ばの女性です。
リカさんとは、スピーチのサークルで知り合いました。
私は彼女のスピーチを初めて聞いて、すぐに発達障害のある人だと直感しました。
過剰に抑揚をつけたイントネーションや、些細なことにこだわるあたりから、
そのように感じたのです。
その日のサークルの会合が終わって、時間のある人同士でお茶を飲んでいると、
案の定、リカさんは自分の障害をオープンにしました。
私は「やっぱりそうなのか」と思いましたが、だからといって悪く思ったり、
どのように接したらよいのか悩んだりするようなことはありませんでした。
サークル活動で顔を合わせるにつれて、リカさんについて他のメンバーから話を聞くことがありました。
例えば、サークルではスピーチの後に別のメンバーがよかったところ、
改善点などを踏まえてフィードバックを行いますが、
リカさんのフィードバックは言い方がストレートすぎて、
スピーチした人が気を悪くすることもあったそうです。
リカさんは「このように言ったら相手が傷つくだろう」と察するのがとても苦手なのです。
とはいえリカさんは、サークル内では少々疎まれるところはあったものの、
他人に大きな迷惑をかけることはなく、サークルに損害を与えることもありませんでした。
ところが2013年、リカさんに大きな転機が訪れました。
リカさんは引っ越すことになり、今まで入っていたサークルをやめて、
引っ越し先の方で、同じプログラムを用いて活動するスピーチサークルに入り直したのです。
私は2014年の秋に、引っ越し先のサークルにたまたま行くことになり、
そこでリカさんに久しぶりに会いました。
するとどうでしょう。
新しく入り直したサークルで、リカさんは実に生き生きとしていたのです。
引っ越す前、リカさんはサークル内では「山田さん」と苗字で呼ばれていました。
でも引っ越した後に入ったサークルでは、「リカちゃん」と名前で呼ばれています。
特に年配の女性にかわいがられている様子が、見ていてよくわかりました。
また引っ越す前は、リカさんの些細なことにとらわれるところや、
ストレートすぎる物の言い方が悪く思われがちでした。
しかし引っ越した後は、「些細なことにとらわれる」は「細かいところまでよく見ている」、
「ストレートすぎる言い方」は「鋭い分析」と好意的に受け止めらるようになったのです。
実際私も、引っ越し先のサークルでリカさんからフィードバックを受ける機会がありましたが、
厳しいことを言われても嫌な感じは全くありませんでした。
リカさんがこのように生き生きとしていられるのは、
引っ越し先のサークルのメンバーが、リカさんの「些細なことにとらわれる」
「ストレートすぎる言い方」といった障害による特性を、
否定するものではなく、一つの個性として肯定的に受け入れたおかげだと思います。
発達障害は、周囲の対応しだいで重くもなれば軽くもなることを、
リカさんを通して改めて認識しています。