わたしの姉は、昔から変わった人でした。
モノに対するこだわりが異様に強く、
自分の持ち物は妹であるわたしにも決して触らせません。
「今日は外食しようか」といった急な予定変更に対してものすごく抵抗して、
一人で家に残りカップラーメンを食べるようなこともありました。
話の仕方も摩訶不思議でした。
急に「自分が今ハマっているもの」の話を事細かにしてきたり、
その日学校であったことを、
「教室に入ったのは8時7分でね、まず◯◯ちゃんにおはようって言ってね、それから…」
という具合に、始業前から放課後に至るまでの一部始終を並べ立てたりするのです。
お友達に対してもそんな接し方をするので、多くの人から敬遠されていたようです。
年の近いわたしも変な目で見られることもありました。
それでも記憶力はやたらとよくて、バスや電車の時刻表を覚えていたり、
勉強面でも理数系には強い人でした。
母はそんな姉にいつもつきっきりで話を聞いていたので、
わたしは寂しい幼年期を過ごしたものでした。
そんな姉も内心かなり辛かったらしく、大学生になった頃、
「わたしは変なのだろうか」と言い出すようになり、
それまで優秀な成績をおさめていた大学に、突然行けなくなりました。
両親を伴って訪れた精神科での診断は、アスペルガー症候群でした。
知的障害のない自閉症、と言われてもピンとこなくて、わたしもかなり勉強しました。
育て方が悪かったのだろうかと悩む両親に、
アスペルガーは先天性のものだから育て方は関係ないと説明したり、
どうせ治るものではないのだからと割り切って、
姉本人の興味の方向を活かした就職口がないか一緒になって考えたり…。
その甲斐あってか、姉は今現在、とある研究施設で働いています。
対人関係に悩まされることの少ない職場で、
仕事の内容もルーティーン的なものだそうなので、姉も落ち着いて働けているようです。
また、姉の障害への理解のある人と巡り合うことができ、昨年めでたく結婚しました。
いまだに独身で仕事にも納得していないわたしから考えてみれば、
幼い頃から姉に振り回された人生だったかもしれません。
しかしそれでも、わたしは姉に才能を感じていましたし、
間近でその苦悩を見てきて、姉の辛さも理解していました。
そして何より二人きりの姉妹であったことから、姉の今の状態に満足しています。
アスペルガーはうまくサポートしてあげられれば、
姉のようにきちんと生活できるのだということを、多くの人に知ってほしいと思います。